入管実務に携わる行政書士であれば、地方入管による差、担当審査官による追加資料の違い、審査期間のばらつきについて、一度も感じたことがない人はむしろ少ないのではないでしょうか。
それは、非常によく似た案件であっても、申請する地方出入国在留管理局や担当する審査官によって、審査期間、追加資料の要求内容、そして最終的な判断にまで、少なからず差が生じることがあるという現実です。
もちろん、在留資格の審査には法令や審査上の基準があり、すべてが審査官個人の裁量だけで決まるわけではありません。しかし、入管審査は単純なチェックリスト方式ではなく、申請人の経歴、会社の実態、事業内容、収支、職務内容、過去の在留状況など、多数の事情を総合的に判断する手続です。
そのため、実務では、
「前回はこの資料で許可されたのに、今回は追加資料を求められた」
「A地方入管では特に問題にならなかった点を、B地方入管では詳しく説明するよう求められた」
「ほとんど同じ条件に見える二つの案件なのに、片方は早く許可され、もう片方は長期間審査が続いている」
といったことが現実に起こります。
お客様からもよく、
「友人は簡単にビザが取れた」
「知り合いは1か月で許可された」
「同じような会社なのに、なぜ私だけこんなに資料を出さなければならないのか」
と聞かれます。
しかし、入管申請において、他人の許可例は参考にはなっても、自分の案件の許可を保証するものではありません。
行政書士として重要なのは、「絶対に大丈夫です」と言うことではなく、過去の許可例だけで安易に判断せず、地方入管ごとの運用傾向、過去の追加資料、不許可事例、近時の審査状況などを積み重ね、予測できない部分を少しでも減らしていくことだと考えています。
入管業務には、制度だけを読んでも分からない部分があります。そして、その「差」や「不確実性」まで含めて理解することが、入管実務の本当の難しさなのです。
それでも、「専門家でも分からないことがあります」と表立って言う人は多くありません。だからこそ、入管業務について語られる情報には、一種の「生存者バイアス」があるように感じます。
許可された案件は語られる。うまくいかなかった案件、理解しにくい追加資料、予想外に長引いた案件、判断に迷った案件は語られない。
しかし、本当の実務経験とは、成功例だけではなく、むしろそうした「予想外」の蓄積にあるのではないでしょうか。
